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【哲学2016】 第六回 『蟲師』「露を吸う群」 と時間論

【哲学2016】 第六回 『蟲師』「露を吸う群」 と時間論

前回は「夢」の世界についてかんがえた。夢の中の時間は、どうなっているのだろうか? 夢と現実のタイミングがぴったり合う、なんて経験はないでしょうか? 学生時代の私の仮説は、「夢と現実のタイミングがぴったり合うのは、タイミングがぴったり合った瞬間から、夢の時間は遡行的に再構成されているのではないか」というものでした。たとえば、眠っている間は、わけのわからないイメージの中を我々はさ迷っていて、目覚める瞬間、意識を取り戻す刹那に、そのイメージを時間軸に沿って物語として構成する。その構成されたものが、覚醒した人によって、「夢」の「記憶」として物語風に語られるということが考えられる。これは、夢の体験を整合的に理解しうると思われる単なるアイデアであるが、ここでは、そういうことも考えられる、という程度で議論を進めよう。

そう言うことが考えられるなら、時間についても、客観的・社会的な時間とは異なる、「主観的な内なる時間」というものを考える余地が出てくるだろう。フランスの哲学者ベルグソンは、こうした内なる時間こそがリアルなものであり、社会的時間はこれを知性によって平面化したものにすぎないとの解釈を示した。一方、同時期の哲学者ハイデッガーは、すべての存在者を私たちにとって意味ある「存在者」としているのは、人間の意識であると考え、これを「現存在」と呼んだ。そして、自由な主体としての現存在の特徴として、時間性を指摘しています。この二人の思想家が「時間が自由の基礎をなす」という根本的な考えで一致していることを京都学派の一人で偶然性の哲学者とされる九鬼周造が指摘している。独自の現象論を展開する昭和の哲学者大森荘蔵もまた、こうした議論に拠って、物理学の扱う線型の時間が意識の中で生成されてきたと論じている。

昨年度の時間論の議論は、ここに↓
http://blogs.yahoo.co.jp/blog2735/56800985.html

昨年度は、野矢茂樹中島義道ベルグソンの議論を意識しながら、「時の流れを、川の流れに喩えるのは適切なのだろうか?」「時間の流れが速い/遅いの判断はどうやってしているのだろうか?」と、問題提起をしました。

今年度は、次の問いを考えて見ましょう。

時の流れは人によって異なるのか、もし異ならないとしたらそれはなぜだろうか? もし異なるとしたら、それはどういうことを意味するのだろうか? 

参考:
ベルグソン『時間と自由』(2001)『物質と記憶』(2015)、岩波(文庫)
ハイデッガー存在と時間岩波文庫
九鬼周造「時間の問題」(『九鬼周造全集 第三巻』岩波書店、1981年)
大森荘蔵「線型時間の製作と点時刻」1993年(『時間と存在』青土社、1994年)
橋元淳一郎『時間はどこで生まれるのか』集英社(新書)2006年
本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間』中央公論社(新書)1992年
野矢茂樹『哲学の謎』講談社(現代新書)1996年

レポートへの応答
 作品中の言葉、設定などがわかりにくい。日本語字幕を表示してほしい。
→こういう形式の作品は、徐々に世界観が明らかになっていきます。楽しみにしつつ、注意していてください。日本語字幕を表示できたらしてみます。
 考える時間をとって→できるだけ。少なくともエンディングの時間は大事にしよう。
 レポート記入について。→文字数はもちろん長いほどよいが、私の労力もあるので、そのバランスを探る。皆さんには苦労をかけますが、共通科目なので、ご理解よろしく。うまく、コンパクトにまとめてもらいたい(練習も兼ねて)。Wordなどのソフトで先に作成してから、Web上の入力フォームにコピーして入力すると、Wordの機能で文字数カウント(校閲→文字カウント)もできるし、入力中に接続が切れてしまうこともないだろう。
 レポートでは、いろいろな解答があってよいと考えています。思想について答えは一つではなく、思想を受け取る側の関心や知識に応じて、異なる受け取り方、分析・評価があるべきだと思います。そして、その分析に合った、思想の読み取りがあるわけですから、作品の要約もまた人によって異なっていてかまいません。「正解」を探るのではなく、自分の関心を自覚しつつ、その関心を深めてくれる作品の可能性を探り、それをできるだけ一貫した形で提示するように努力してみてください。それがこの講義で目指している「思想」「哲学」の活動になります。

今日のレポート
「主観的な時の流れ」「主観的な意識の世界」について、作品を検討しつつ、自分の考えを書く。「柔らかい角」「枕小路」「露を吸う群れ」のいずれかを要約(100字)し、思想を抽出(150字)し、それを検討・評価・解釈して自分の考えを述べよ(150字)。自分の書きたいことから遡行的に、思想→要約と考え、一貫性のあるレポートを。
今週末金曜まで、Live Campusの授業サポート→小テストへ記入のこと。